勿忘草の花言葉に潜む、中世ドイツの涙を誘う伝説とは?

勿忘草の花言葉に潜む、中世ドイツの涙を誘う伝説とは?

勿忘草の花言葉は数種類あります。例えば「友情」、或いは「思い出」。芯の強さや可憐さを感じさせる、この花のイメージにはぴったりの花言葉だと思います。その花言葉の中でも最も有名なのは、花の名前と同様の意味である「私を忘れないで」です。

このように花の名前と花言葉が一致するのはとても珍しいことですが、これはどちらも中世ドイツの伝説が由来となっていることによります。どうして、あの控えめで可憐な花にこのような名前がつき、花言葉が語り継がれているのでしょうか。これからその悲しい伝説について、お話をしたいと思います。

 

勿忘草の花言葉に潜む、
中世ドイツの涙を誘う伝説とは?

 

そもそも、勿忘草ってどんな花?

伝説のお話の前に、勿忘草がどのような花なのか、説明をしておきたいと思います。勿忘草はムラサキ科・ワスレナグサ属の種の総称です。原産はヨーロッパで、世界には50種ほどの仲間が存在します。多年草ではありますが、日本においては夏に枯れるので、一年草となっています。花の色は有名な青以外に、白・紫・ピンクなどがあります。また、葉の形がネズミの歯に似ているということで「ミオソティス(ハツカネズミの歯)」という別名を持っています。これは、ワスレナグサ属の学名「Myosotis」由来でもあります。

 

中世ドイツの恋人たちの悲しい伝説

ある日、ドナウ川の岸辺をルドルフという名の騎士と、その恋人ベルタが歩いていました。ベルタはその急流の中に、ある花を見つけました。ルドルフはベルタのためにその花を摘もうと、流れに身を投じました。しかし流れはルドルフが思うよりも、ずっと激しいものでした。花に手が届いたものの、ルドルフの身体は急流に飲まれてしまいました。

もはや命は助からない、と悟ったルドルフは「僕を忘れないで!(Vergiss-mein-nicht!)」と叫び、手にした花を岸辺のベルタに投げて、流れに消えてしまいました。ベルタはその言葉通りにルドルフを生涯忘れず、この花=勿忘草を髪に飾り続けました。これが、勿忘草にまつわる有名な伝説です。

そもそも世界各地には神秘的な力を持つ「青い花」が地中の宝を開いて見せる、という民間信仰がありました。
ドイツにもその信仰が伝わっており、この伝説にもおそらく、その影響があったのでしょうね。

 

「私を忘れないで」そして「真実の愛」

この伝説は勿忘草(Vergissmeinnicht(フェァギスマインニヒトゥ))という名前と、「私を忘れないで」という花言葉を生みました。ところでもうひとつ、勿忘草には有名な花言葉があります。それが「真実の愛」です。

これは、ベルタが失った恋人を生涯思い続け、純潔を守り抜いたということによります。悲しい伝説からは、実はふたつの花言葉が生まれていたのです。この伝説は後にドイツ擬古典主義の詩人、プラーテン(1796-1835)の詩にも謳われました。

 

英語名「Forget-me-not」の秘密

勿忘草のドイツ名「Vergissmeinnicht」を英語名にしたものが「Forget-me-not(フォーゲット・ミー・ノット)」です。ところが「私を忘れないで」は英語にすると「Don’t forget me」になります。どうして、このような違いが生まれたのでしょうか。それは「Forget-me-not」は現代の英語ではなく、中世(5~15世紀)に用いられていた英語の語順だからなのです。

 

勿忘草の花の意味は世界中に広がっている

世界の主な言語でも、勿忘草は「私を忘れないで」という意味で表されています。主な言語を挙げますと、

フランス語→Ne m’oubliez pas(ヌ・ムビリエ・パ)
スペイン語→Nomeolvides(ノメオルビーデス)
中国語→勿忘我草(ウーワンウォツァオ)
※日本と同じ表記「勿忘草(ウーワンツァオ)」のこともあります。
などがあります。

ここまで拡がりをみせているということは、勿忘草は世界的に「愛を示す花」と認識されていると言っても過言ではないでしょう。

 

日本での俗称

勿忘草がミオソティスという別名を持っていることは、上に挙げた通りです。実はもうひとつ、俗称があります。
それは「藍微塵(あいみじん)」。小さいけれども輝かんばかりの青い花を咲かせる、勿忘草にはぴったりの俗称です。

 

その他の伝説もあります

中世ドイツの伝説以外にも、もうひとつ伝説があるので、参考までにお話しておきます。舞台はそれよりもずっとずっと昔、人類が生まれた頃のことです。

エデンの園に咲く花々に、アダムが名前をつけました。全ての花に名前をつけ終わったと思った時、足元から思いがけない声が聞こえてきました。「私にはどのような名前がつくのでしょうか…」アダムが声のする方を見ると、小さな美しい花が咲いていました。

「こんなに美しい花に名前をつけ忘れたなんて…絶対に忘れないように「ワスレナグサ」と名付けよう!」
こうして花はアダムから「ワスレナグサ=勿忘草」という名前を貰いました。あなたは悲しい恋人たちの伝説と、アダムの名づけの伝説、どちらが好きですか?

 

いかがでしょうか。ここでは伝説と、それにまつわるあれこれをお話しましたが、これは世界中の人々が古来から勿忘草を愛し、語り継いで来た歴史によるものでもあります。実際は「私を忘れないで」と言われても、忘れるに忘れられない美しい花であり、今も未来も人々に愛されていくのでしょう。

勿忘草の花の時期は3月から5月(冷涼な土地では4月から7月)。今度勿忘草の花を見つけたら、ぜひこれらのお話に思いを馳せつつ、花を楽しんでいただきたいと思います。

 

まとめ

勿忘草の花言葉に潜む、中世ドイツの涙を誘う伝説とは?

・そもそも、勿忘草ってどんな花?
・中世ドイツの恋人たちの悲しい伝説
・「私を忘れないで」そして「真実の愛」
・英語名「Forget-me-not」の秘密
・勿忘草の花の意味は世界中に広がっている
・日本での「俗称」
・その他の伝説もあります

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