私たちが夏の花に抱くイメージと言えばまず、強い陽射しの下で咲き誇る元気な姿ですよね。太陽に向かって咲くヒマワリはその典型的な例です。ヒマワリで作られた迷路で太陽の光を浴びながら、麦わら帽子をかぶった子ども親子ではしゃぐ様子をニュースなどで見ると、ああ夏だな~!と感じます。
一方、夏は切り花がとても傷みやすいため、フラワーショップでは夏の花らしい夏の花はヒマワリやダリア、アンスリウムなどがあるものの、涼しさを感じさせるアレンジかトロピカルなアレンジかのほぼ二択をせまられてしまいがち。
夏の花は室内に持ち込んで季節感を味わうというよりは、もっと自由に屋外で目に入ってくる花のほうをよく覚えているものではないでしょうか。夏の花には他の季節にはない大きな特徴が色々あります。そこで今回は夏の花に関する豆知識についてお伝えします。
日本人に馴染みの深いアサガオ
子どもの頃から触れることの多い代表的な夏の花と言えば、アサガオでしょう。幼稚園や小学校で種まきから種を取るところまでアサガオを育てた経験のある人も多いはず。江戸時代に日本中で大ブームを起こしたアサガオは、幕末には八重咲や変わった形の珍しい品種が1000種類を超えていました。
その後も熱烈な愛好家が後を絶たず、直径20cm以上の大輪アサガオや、江戸時代に生まれた黄色や黒のアサガオの再現などの育種が続いています。アサガオの有名な品種に海老茶色の「団十郎」がありますが、これは二代目市川團十郎の衣裳にちなんでいて江戸時代一世を風靡したもの。「団十郎」は一時途絶え、「幻の朝顔」と呼ばれています。
それに似せた品種が現在出回っていますが、本物は九州大学が種の保存を図るため制限しながら希望者に種子を分けています。夏に定着したグリーンカーテンには、日本のアサガオよりも成長が早くより葉が勢いよく茂り、花が夕方まで咲いている宿根草の琉球アサガオが主流に。
日常で目に触れる街路樹の花
春に私たちが桜や梅、ツツジのようにわざわざそれを見に行くだけあって、春の樹木の花の満開の美しさは花の期間が短いながらも群を抜いています。でも、夏の花はもっと自由で気さく。いつでも会えます。住宅街や裏道、メインストリートではない通りの街路樹で頻繁に見かけることのできる夏の花が、ムクゲとサルスベリ。
ムクゲ(木槿)はハイビスカスの仲間です。江戸時代から花木として愛されている夏の花で、赤紫の5枚の花びらの中心から突き出ている太い雌しべとそれとくっいた形の雄しべが特徴的。八重咲や白地に中心だけが紫色など多くの品種があります。花は数日で落ちますが次々と花を咲かせるので花が途切れる印象がなく、10月頃までは咲き続けます。
サルスベリは百日紅と書きますが、細かいフリルを寄せたようなピンクの色の花が100日も咲き続けている印象があるほど花期の長い花木です。その色鮮やかな花は遠くからでも花が咲いているのがすぐにわかるほど。すべすべした感触の樹皮からサルスベリの名がつけられていますが実際にはサルはこの程度ではすべったりしないそうです。名前の由来もユーモラスですね。
水との対比が涼感を呼ぶ水辺の夏の花
夏は水に触れる機会も多くなります。水辺に咲く夏の花は、色や形が個性的でその存在感も抜群です。水面に王冠のような形の花が浮かぶスイレンは、アンデルセン童話の親ゆび姫でもお馴染み。
江戸時代には人々は涼を求めて睡蓮鉢にメダカや金魚と一緒にスイレンを浮かべ楽しんでいました。熱帯スイレンが輸入されるようになってからは夜に水面から茎を出して咲く色鮮やかなスイレンが加わり、手軽に家庭でも栽培できるようになりました。
お釈迦様の玉座にもなっているハスの花も、夏を迎える頃にはあちこちで早朝の蓮池にふっくらとした大輪の花が首を伸ばしています。コロコロと水を弾くハスの葉や、実の形もおもしろいのでハスの栽培に魅せられている人もとても多いもの。先のスイレンやハスは、栽培にもある程度のテクニックが必要ですが、勝手に増えてしまうのがウォーターヒヤシンスの別名を持つホテイアオイ。
丸くふくらんだ葉柄が布袋様のお腹に似ていて花がアオイのようだとこの和名が付いています。この花は池なら1つ放り込んでおけばどんどん増えて水面を埋め尽くすほどになります。金魚鉢などに入れても姿がユーモラスでかわいいので、お手軽な夏の花として人気があります。
夜こそ楽しみたい夏の花
夕方から夜にかけて、もしくは夜しか咲かない花は夏の花ならでは。ほとんどが熱帯~亜熱帯などが原産で、東京の夢の島熱帯植物館では、8月に期間限定で夜咲く花を見られるツアーを行うほど。夜に咲く夏の花は月の光の中で目立つ白い色が多く、強く甘い香りで虫を誘い受粉を行います。受粉が終わると花の色が赤や赤紫に変化するのも不思議なところ。
代表的なのがジャスミンの名で知られているマツリカ(茉莉花)で、肉厚の純白の花はブッダの歯にも例えられています。タイでは母の日にマツリカの花を贈りますし、インドネシアやフィリピンの国花でもあるマツリカはその香りで世界中を魅了しています。
他にも、イエライシャン(夜来香)、精油にも使われるイランイラン、ラッパがたくさん下がったようなダチュラ、香りはないものの薄絹のような純白の月見草などどれも神秘的な花ばかり。また色付きの花としてはブルーや紫などの熱帯スイレンも見逃せません。家庭でも栽培できるので、1つあると夏の夜の楽しみが増えることでしょう。
世話をする人がいなくてもたくましく咲く夏の花
夏、汗を拭いながら踏切を渡る時、線路の脇に花が咲いているのを目にしたことはありませんか?よく線路付近には樹木と雑草とが一緒くたになって生い茂っていますが、そこにも夏の花が顔をのぞかせています。
日中目立つのはアサガオを小さくしたようなピンクのヒルガオです。つる性の多年草で、観賞用のアサガオもこの仲間。アサガオの仲間は勢いが良すぎるため全世界で雑草として疎まれていますが、日本人だけがこの花の魅力に理解を示し観賞用アサガオを生み出したのです。ヒルガオもあまり駆除の対象になることもなく、夏の花の一員として可憐な姿を見せています。
夕方から存在感を発揮するのが白、赤、黄色や花の色が絞り模様になっているオシロイバナ。白粉には使えませんが、黒い種をつぶすと白い胚乳が白粉のように見えるのでこう呼ばれています。学校の花壇などの常連でしたが、いつの間にか雑草化していた歴史の長い夏の花です。
夏の花は底抜けに明るいイメージの花ばかりではなく、目立たなくひっそりと咲きながら強烈な香りを放つ花や水辺の色鮮やかな花など、他の季節にはあまり見られない意外な特徴を持つ花が多いもの。花の咲いている期間が長いのも嬉しいですよね。年々日本の気候も熱帯化しているせいか、これまで日本では育ちにくかった熱帯の花がどんどん普及しています。
先にお伝えした琉球アサガオも、ちょっとした空き地などに毎年どこからともなく生えてきて青紫色の花をびっしりつけていることもあるのです。夏はガーデニング作業には少し厳しい季節ですが、普段何気なく歩いている道端や植物園などで夏の花を味わうというのも素敵ですよ。
まとめ
夏の花にまつわる豆知識
・日本人が園芸種に仕立てたアサガオは琉球アサガオなども加わり多様化
・排気ガスや高温多湿の環境でも長期間咲いている街頭の花
・水辺の花は夏を涼しく演出する名脇役
・夕方から夜に咲く花は香りや繊細な花びらが神秘的
・ヒルガオや雑草化したオシロイバナなど放っておいても増える花がある