睡蓮といえばモネの描いた「睡蓮」でその名がよく知られていますよね。睡蓮の花言葉には、「信仰」「清純な心」「純粋」など、花の姿にふさわしい言葉が付けられています。睡蓮はスイレン科スイレン属の多年草ですが、学名はNymphaea(ニンファエア=妖精)で、その由来はギリシア神話にさかのぼります。
ニンフとは、乙女の姿をした自然界に住む精霊のようなもので、神々と恋に落ちたり人間に悪戯をしたりと、ギリシア神話にはニンフにまつわる様々な物語が残されています。中には残酷な話も多く睡蓮もニンフの悲劇から生まれた花でした。
ギリシア神話の英雄ヘラクレスの恋人だったニンフが、彼に捨てられて身投げした川に生えたのが睡蓮です。また、睡蓮の花は泥の中から水面に姿を現し、花が閉じてまた開くという性質から不思議な力を持つと考えられたため、世界中に睡蓮にまつわる話や花言葉がたくさん伝わっています。そこで今回は睡蓮の花言葉、意味と役立つ知識についてお伝えします。
睡蓮の名前いろいろ
全ての睡蓮には1日の中に花が開いている時と閉じている時があり、その様子がまるで眠っているように見えるため、睡蓮の名は「睡(ねむ)る蓮(はす)」です。日本にも自生種の睡蓮である「ヒツジグサ」があり、「未の刻(ひつじのこく=14時頃)」に花が閉じるためつけられたことから睡蓮そのものを未草と呼ぶこともあります。
英語では「water lily」(水辺の百合)で、睡蓮の花言葉も「purity of heart(清らかな心)」です。百合は聖母マリアの象徴でもあるため、睡蓮にもその清らかなイメージが重なっています。
睡蓮の種類
睡蓮は温帯から熱帯まで広く自生していますが、蓮と同じ仲間だとされてきたため名前も混同しているものがあります。現代ではその区別が明確で、蓮は花の中央に蜂の巣のように穴の開いている花床を持っていて、睡蓮は葉に切れ込みがあるのが見分け方の目安。
睡蓮は世界でも40~50種類あり園芸種として温帯性と熱帯性に分かれています。日本のヒツジグサやモネの睡蓮は温帯性で、水面すれすれに花が咲きます。熱帯性は赤、ピンク、紫など鮮やかな濃い色で茎が水面から出た先に花を咲かせます。昼咲きと夜咲きがあり、香りの良い品種や花付きの良い品種など種類が豊富なのが熱帯性睡蓮の特徴です。
睡蓮にゆかりの深い国々
野生の睡蓮の多くが白のため、睡蓮の花言葉には清廉なイメージのものが多くなっていますが、中でも睡蓮の花言葉「信仰」「清純な心」「純粋」は、エジプトやスリランカなど睡蓮を国花とする国々と深く結びついています。
古代エジプトでは、ナイル河畔に多く自生していた睡蓮の花の間から朝昇る太陽が、まるで睡蓮から生まれたように見えたので、人々は睡蓮を太陽神ラーが生まれた神聖な花だと考えました。
エジプトの神話には睡蓮の冠をかぶっている女神が登場し、遺跡にも睡蓮が多く描かれています。スリランカの睡蓮は青紫の「マーネル」で、世界遺産の岩山シギリヤ・ロックの壁画に描かれているシギリヤ・レディが睡蓮の花を持っていることは有名。
多くのサンスクリット文学にも睡蓮が登場しています。バングラデシュの赤い睡蓮「シャプラ」は女性の名前にも使われるばかりか、インドから独立した際に国章のモチーフになっているほどで、広く睡蓮が愛されています。
睡蓮の咲いている場所は危険な場所
睡蓮には怖い花言葉もあります。「滅亡」がそうですが、ニンフの死から生まれた睡蓮とはいえ、国花にされるほどの睡蓮の花言葉に「滅亡」はひどすぎやしないでしょうか。でもこれには事情があります。
池や沼はむやみに入ると危険で、死に至る場所でもあります。神話の中にも沼に住むニンフが人間に恋をして沼に引きずり込んでしまう話がありますが、ドイツでは昔、睡蓮が咲く沼には魔物がいると言われていました。
沼の近くを歩く時にはおまじないを唱えてゆっくり歩きなさいという話ですが、これは一種の子供への躾です。落ちて死ぬ危険性のある沼や池に子供を近づけないための、親の生み出した知恵であるといえます。
底の見えない水たまりから、朝に王冠のような形の姿を見せたかと思うと昼には閉じ、また開いては閉じる睡蓮の花には、何か不思議な力が宿ると考えられたのも無理はありませんね。睡蓮の別の花言葉「警戒心」が睡蓮をむやみに手折ることのないようにと戒めます。
世界最大の睡蓮と最小の睡蓮
世界最大の睡蓮はオオオニバス(大鬼蓮)で、日本の植物園にも時々見かけられます。ハスという名前がついていますがスイレン科で、花は40㎝、お盆のように縁が反り返る葉の直径は3m以上あります。このくらいの大きさになると、睡蓮の花言葉である「清純な心」というのも、ちょっと結びつきにくいかもしれませんね。
しかし、夕方から花が咲くので夜の植物園のイベントなどで目玉になっていることも多い人気の睡蓮です。一方最小の睡蓮はなんと、葉の直径わずか1㎝!アフリカのルワンダにある温泉近くの沼に自生していたのを1985年に発見されましたが一度絶滅し、イギリスのキュー王立植物園で種子を植え直して栽培に成功し2009年に開花にこぎつけたと言われています。
さて、睡蓮は明治時代の終わり頃に日本に園芸種が入ってきましたが、白やクリーム色の薄い色だけで、地味な存在でした。それが、モネの「睡蓮」によってフランスのモネの庭園を訪れる人も増え、日本で同じように睡蓮の池を探したり、モネの池そのものを再現する動きも盛んになりました。
ヒツジグサの生えている池に、鯉が泳いでいる様子が海外でもモネの絵そっくりだと評判の、岐阜県関市の「モネの池」や、高知県にある「モネの庭マルモッタン」のように正式に「モネの庭」を名乗れる名所など、各地にあるモネの睡蓮をイメージした名所が人々を惹きつけてやみません。
また、熱帯性の色鮮やかな睡蓮の出現で、清純さ一辺倒のような睡蓮の花言葉以外でも「甘美」「優しさ」などがよりしっくりとくる睡蓮の花言葉としてバリエーションが増えました。
熱帯性睡蓮は大きな器で育てれば豪華な花が、小さな器で育てれば小ぶりの可憐な花が咲くといった環境適応能力にも優れていて、専用の睡蓮鉢でなくても気軽に睡蓮を楽しむことができます。姫睡蓮といった小さめの花が咲く睡蓮も育てやすいので、夏、暑くて外でのガーデニングが億劫な時など、睡蓮栽培に挑戦してみるのも楽しいかもしれませんね。
まとめ
睡蓮の花言葉と役立つ知識とは
・日本の在来種「未草」がある睡蓮は花が閉じる様子を眠る蓮に例えたもの
・水面のすぐ上に咲く温帯睡蓮と茎を水面から出して咲くカラフルな熱帯睡蓮
・清らかなイメージの睡蓮は「信仰」「清純な心」の花言葉を持ち国花とする国も多い
・睡蓮の咲く池や沼にむやみに近づかせないような花言葉「警戒心」がある
・世界最大の睡蓮は葉の大きさが3m以上、最小はわずか1㎝