「秋の七草」と言われても、お正月が明けた1月7日の「春の七草」は良く知られていますが、ピンと来ない方が多いですよね。
春の七草では、ごちそう続きのお正月で疲れた胃腸を労わるよう、七草をおかゆにしていただく習慣がありますが、秋の七草には食する習慣はないのです。どちらかと言えば眺めて楽しむのが、秋の草花。
秋のお月見にお団子と共に飾る、ススキも秋の七草のひとつなのですが、ほかに現在ではあまり見られなくなった花々もあります。
それでは近年ではあまり知られていないことも頷けますが、実は最近、一部のインターネットなどで、「秋の七草の覚え方などが面白い!」や、春の七草と比較するなどを通して、知られつつあるのです。
確かに春の七草だけではなく、「秋の七草」もある!となれば、気になりますよね。そこで今回は、ちょっと気になる秋の七草、周囲の人々にも伝えたくなる豆知識をお伝えします。
秋の七草って何?
その始まりと覚え方など7つの豆知識
秋の七草の由来
秋の七草といわれる7つの植物は、誰がいつ頃決めたのでしょうか。その由来は、遥か奈良時代まで遡り、奈良時代の歌人・山上憶良(やまのうえの おくら)が詠んだ歌が始まり。
【 山上億良が詠んだ、秋の七草 】
・ 「秋の野に 咲きたる花を指折りかき数ふれば 七種の花」という歌がひとつ。
・ 「萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花また藤袴 朝貌の花」という歌も…。
この二首の歌は続けて詠まれており、一種目で7つの草花が秋に咲くと詠い、二首目ではその草花の種類を挙げています。この歌に挙げられた七つの草花が、秋の花の代表として親しまれるようになったと考えられています。
秋の七草にはどんな植物があるの?
【 山上憶良が詠った、秋の七草 】
・ 萩(ハギ)
・ 尾花(ススキのこと)
・ 葛(クズ)
・ 撫子(ナデシコ)
・ 女郎花(オミナエシ)
・ 藤袴(フジバカマ)
・ 朝貌(アサガオ)の7つ!
ただし、最後の「アサガオ」は夏に咲くヒルガオ科の花ではなく、今でいうキキョウのこと。このキキョウとフジバカマは、今では数も少なくなり、残念ながら、秋の野ではなかなか見つけられない、絶滅危惧類になっています。
秋の七草の覚え方
この七つの草花の名前を、簡単に覚えられる方法。これが今インターネットなどでちょっとした話題にもなっています!さまざまな覚え方で、面白いとのこと…。
「面白い」とは別に、最も一般的な覚え方が、「おすきなふくは(お好きな服は?)」です。この頭文字に花の名前を当てはめて、語呂合わせで覚えます。
【 秋の七草の最も有名な覚え方 】
・「お」はオミナエシ
・「す」はススキ
・「き」はキキョウ
・「な」はナデシコ
・「ふ」はフジバカマ
・「く」はクズ
・「は」はハギ
…これで一気に覚えられますよね。
他にも「はすきーな おふくろ(ハスキーなお袋)」なんていう語呂合わせもありますので、覚えやすいほうを使うと、秋の七草を簡単に暗記できちゃいます!
秋の七草は、秋の花ではない?
ところで、お花に詳しい方なら、この七つの花の名にちょっと疑問を持ったかもしれません。それは、ススキやハギはともかく、キキョウは6月の花ですし、ナデシコに至っては春に咲く花なのです。
なぜ、別の季節の花が入っているのかということには、この秋の七草が決められたのが奈良時代ということと関わってきます。
【 なぜ、キキョウが秋の七草? 】
★ 奈良時代の暦で「秋」というのは、現代でいう夏頃をさしていたということから、その時期に開花する花の種類も、今とは違っていたと考えられます。
・ 他にも現代とは違う、多くの花が秋の野を彩っていたのかもしれません。
生活の中で使われていた秋の七草
秋の七草は、春の七草のように食する習慣は無いのですが、秋の七草の中でもいくつかは、当時の人々の生活のなかで食用とされていたものがあります。
【 食用に使われた、秋の七草 】
例えば…)
・ 根の部分にでんぷん質が多いクズは、「くず餅」の材料!
・ ハギも実を餅に混ぜて食していたそうで、これが「おはぎ」の由来なのです。
他に、ハギやススキは、屋根を葺いたり、ほうきやすだれといった日用品の材料として使われていました。
秋の七草は漢方薬としても利用
また、秋の七草には漢方薬として使われる植物があります。
【 漢方薬に使う、秋の七草 】
・ クズの根が、葛根湯という風邪に効く生薬の原料になるのは有名!
・ キキョウの根は咳止めに。
・ オミナエシの根は解毒や利尿効果に使います。
・ ナデシコの種を煎じて飲むとむくみに効くのです。
当時の人々にとっては花を眺めて楽しむだけではなく、薬としても有効に活用されていたことが分かります。
新しい秋の七草
奈良時代に決められた秋の七草ですが、昭和になってから新しい秋の七草を選ぶという試みが二度行われ、それぞれ新しい秋の七草が選ばれました。
一度目は1935年に東京日日新聞社(今の毎日新聞社)が提案し、与謝野晶子や高浜虚子などが選定に参加したもの。
【 1935年に選ばれた秋の七草 】
★ コスモス、オシロイバナ、シュウカイドウ、ハゲイトウ、キク、ヒガンバナ、イヌタデの七つ。
二度目は1980年に行われ、植物学者の本田正次らが、ホトトギス、ノギク、カルカヤ、ヒガンバナ、マツムシソウ、ワレモコウ、リンドウの七つを選びました。
いかがでしたでしょうか、秋の七草について、その由来や面白い覚え方など、豆知識をお伝えしました。
現代よりももっと、自然や季節の移ろいを身近に感じて生活していた、昔の人々は、暦に沿った草花を生活の中に取り入れることが、とても上手だったようです。
秋の七草の中には、時代の変化と共に次第に数が減少してしまった花もありますが、黄色く可愛らしい花を咲かせるオミナエシなどは、切り花として現代でも人気があり、フラワーアレンジメントにも使われます。ナデシコやキキョウは鉢植えで育ててみるのも、美しい花々なのでおすすめ。
私たちも万葉の人々に倣って、秋の七草を暮らしの中に取り入れ楽しむことで、季節を感じる豊かな毎日を過ごせるかもしれません。
まとめ
秋の七草の豆知識
・奈良時代の歌人・山上憶良が詠んだ歌が始まり
・萩、尾花、葛、撫子、女郎花、藤袴、朝貌(キキョウ)
・「お好きな服は?」で覚える
・奈良時代の「秋」は、現代の夏頃をさしていた
・葛や萩など、当時は食用されていたものも多い
・葛根湯など、漢方薬の生薬として使われている
・1935年と1980年に、現代の秋の七草が検討された