ローズウッドというと、その名前からバラに似た植物かとイメージしやすいですよね。しかしローズウッドは南米の熱帯雨林に自生するクスノキ科の樹木で、その木材の中心部分のチップから精油が作られています。
高級香水にも用いられているローズウッドは、フランス語名のボア・ド・ローズ (Bois de Rose)とも呼びますが確かにバラを思わせる香りが最初に感じられます。クスノキ科の樹木はよく防虫剤に利用されるものが多いのですが、ローズウッドもその特性を持っているため、全体としては甘く少しスパイシーなウッディフローラル系の香りです。
樹木系の香りは、シダーウッドのような針葉樹の清涼感ある香りやサンダルウッドのようなエキゾチックな香りといった性格がはっきりしているものがほとんどですが、ローズウッドは一口では語れない複雑な香りを持っています。
ラベンダーやローズマリーのようにメジャーな精油ではないものの、その香りに魅せられている人々は少なくありません。そこで今回はローズウッドがすごいと言われる豆知識についてお伝えします。
化粧品に不可欠なローズウッドの芳香成分
ローズウッドの芳香成分は「リナロール」が主成分で、88%ほど含まれています。これはスズランやラベンダーにも含まれている爽やかな甘い香りで、いわゆるフローラル系といえば間違いなくこの成分が入っています。スキンケア化粧品からメイク用品、ボディ化粧品やシャンプーリンスと、ありとあらゆるコスメに必要不可欠な香り。
1960年代前半まではリナロールを求めて、これが含まれるローズウッドは重要な供給源でした。最盛期には年間500トンの精油を取るために5万トンのローズウッドが消費されていたのです。
そのため産地も最初の自生地だった南米ギアナでほぼ採り尽され、ローズウッドの供給地はブラジルに移り、1960年後半にようやくリナロールの合成が可能になったため、ローズウッドは一部の高級化粧品とアロマテラピーの目的で生産されるようになりました。
それでも樹木の成長には非常に時間がかかるため、資源保護から2006年頃よりアロマテラピーの業界全体でもローズウッドの精油の生産や使用を控えようという流れになっています。
ローズウッドにバラを感じる理由
ローズウッドにバラの香りを感じるのは、バラと同じく「ネロール」や「ゲラニオール」といった成分が含まれているから。ネロールは肌にうるおいを与え、自律神経のバランスを取りストレスやショックを緩和する働きもあります。
ゲラニオールは消炎作用の他、体内で吸収されると一定時間後に汗腺から汗と共に放出されるので、それが体臭や口臭ケアとなることから、バラの香りが女性を美しくする効果があるというのもこれらの成分のおかげ。
バラの精油の本家本元である、ダマスクローズの花びらから採取できる「ローズオットー」はわずか2mlでも1万円以上と高価ですが、ローズウッドだとその20分の1程度ですから、とても手軽にバラを感じることができます。
バラの香りも様々ですので、場合によってはダマスクローズの芳醇な香りよりもローズウッドのさっぱりした親しみやすい香りのほうにバラを感じられるかもしれません。何と言ってもバラとはおよそ結びつかない植物からバラの香りがする、これは非常に価値のあること。
ローズウッドの複雑な香りは他に見られないもの
ローズウッドがバラの代用品に留まらないのは「リモネン」というレモンやオレンジの皮に含まれている成分に代表されるフレッシュな柑橘系の香り、鎮静作用のある「αーテルピネオール」なども含まれていること。
リモネンには鎮静作用によるリラックス効果や、交感神経を刺激し血管を広げることによる血行促進作用、抗菌効果もあり、またαーテルピネオールはユーカリにも含まれている清涼感のある香りで、優れた鎮静作用を持つ働きがあります。色々な精油の成分を大体網羅しているかのようなこれらの成分が複雑に組み合わさっていることで、ローズウッドの奥行きのある香りが形成されているのです。
産地で異なるローズウッドの香り
日本でアロマテラピーが一般的になったのは1990年代ですが、その頃ローズウッドはブラジル産がほとんどになっていました。先にお伝えしたローズウッドの香りの大半を占めるリナロールは2種類に分かれているのですが、その割合はブラジル産ものと初期に生産されていたギアナ産ローズウッドとで違っていたため、実は香りも違っていました。
ブラジル産のローズウッドはコリアンダーの種のような柑橘を思わせるタイプのリナロールも含みますが、ギアナ産ローズウッドのほうがラベンダーの香りに近いタイプのリナロールの成分が多く非常に素晴らしかったと言われています。
今はもう2つのローズウッドの香りを比べることはできません。ローズウッドはワシントン条約の絶滅危惧種に指定されてしまった関係で新たな精油の生産・輸入が極めて厳しい状態に追い込まれてしまいました。
ブラジル政府は植林に力を入れていたということですが、先進国の要望に応えて採り続けた植物を今度は採ってはいけないという理屈は勝手なもので、そう簡単にはいかなかったというのが現実。
ローズウッドの代役を求める努力
ローズウッドの主成分のリナロールは、化粧品用にはほとんど合成でまかなえるようになりましたがやはり天然の香りに勝るものはなく、アロマテラピーの世界ではローズウッドに似た香りを探し求め分析が行われました。
その結果、リナロールを多く含むいくつかの植物がピックアップされ、「ローズウッドに似た香り」として市場にも出回るようになってきました。一つはメキシコやインドなどが主産地のカンラン科の植物「リナロウッド」です。熱帯・亜熱帯に育つ植物で、アロマテラピーでは希少な精油として知られるフランキンセンスやミルラはこのカンラン科に属しています。
リナロウッドはリナロールの含有量が非常に高いため、ウッディーなベースの中にローズに似たフローラルな香りが溶けこんでいるローズウッドの香りと似ています。もう一つは中国・台湾に多くあるホウショウ(芳樟)とも呼ばれるクスノキ科のホーウッド(葉からも採取する場合ホーリーフ)はリナロールが99%という驚異の含有率です。
さて、ローズウッドが激減してしまった現代ですが、実は日本に古くからありながら見落とされていた植物にローズウッドに似た香りがあることが注目され始めたのです。
それは、高級爪楊枝として和菓子や懐石料理に添えられる黒い小枝を削ったようなクロモジです。クロモジもクスノキ科の樹木で、本州から南に広く自生していて小枝や葉を折ると良い香りがして疲れを癒してくれると、登山者にも親しまれていました。
クロモジにはリナロール、ゲラニオール、リモネンが含まれているため、さながら和製ローズウッドと言える存在。クロモジからも採れる精油の量は少ないのですが、国産で安心して使える貴重な精油として静かな人気を集めています。
ローズウッドはその香りの多様性で多くの需要があり、残念ながら現存するローズウッドを守っていくのが精いっぱいの状況です。今もしローズウッドの精油を持っていたらそれはとても貴重なものですので、守りながら大切に使用しましょう。
まとめ
ローズウッドがすごいと言われる豆知識
・あらゆる化粧品の「フローラル系」の香りの元「リナロール」が主成分
・女性を美しくするバラの香りと同じ香り成分を含んでいる
・柑橘系やグリーン系の香りがバラの香りに爽やかさを添えている
・産地も香りも異なる2種類のローズウッドがあったものの今は絶滅危惧種
・ローズウッドの代替品としてリナロウッド、ホーウッドに可能性