日が落ちるのが早く感じられるようになると、花屋さんの店先にもコスモスやリンドウなどの秋に咲く花が目につくようになりますよね。庭や花壇などには真夏から咲き続けている花もまだたくさんありますが、それらも強い陽射しに葉がちりちりに焼けるのがおさまって、何となくホッとしたような落ち着いた表情を見せ始めます。
秋に咲く花は、ぱあっと華やかな雰囲気というよりは楚々としていて、吹く風に揺れるような表情のある花が多くなります。深みのある色や渋い色合いの花が目立つのも秋に咲く花の特徴。
切り花も真夏に比べると持ちが良くなりますが、蕾が咲かないままでしおれることも意外に起こるもの。秋は日本ならではの行事も多く花もそれに合わせて楽しみたいもの。そこで今回は秋に咲く花の長持ち法と楽しみ方についてお伝えします。
秋の風情を感じさせてくれる花束の盲点
秋らしい行事の一つとしてお月見がありますよね。花屋さんではそれに合わせるように秋に咲く花を集めた花束を売っているところがよくあります。その中でも目立つのは、ススキ・コスモス・小菊・リンドウ・ワレモコウといった組み合わせ。
色合わせも美しい、秋に咲く花の代表格ばかりのこの花束。でも実はこの組み合わせは後で苦労するかもしれません。それは、水がなくても平気な花と水を吸いにくくしおれやすい花が同居しているから。
この中でコスモスは茎が腐りやすく、色づいた蕾も咲かずに黒くなってしまうことがありますので活ける前に下葉をできるだけ取り、長さを揃えて切ってから花の部分を新聞紙で包んでお湯に数秒つけ、すぐ水にさらす「湯上げ」にすると花が長持ち。
また、リンドウは日に当たって蕾が開きますが「蝦夷リンドウ」という切り花の品種だと蕾が開きません。水を毎日取り替えれば2週間程度は楽しめ、花が終わったらススキやワレモコウはドライフラワーにして楽しめます。
コスモスをおおらかに楽しむ
秋のレジャーや小旅行に、コスモス畑を訪れたり「コスモス街道」と呼ばれる通りのドライブなどを楽しむ人も多いのではないでしょうか。全国にコスモスの名所は多く、9月から10月にかけてのローカルニュースでは特に、見頃を迎えたコスモスの映像を見ない年はありません。
秋に咲く花の切り花としては花持ちが悪いコスモスですが、植えられているコスモスは強風で茎が横倒しに倒れても、また立ち上がり次々と花を咲かせる逞しさがあります。
また一輪一輪をじっくり眺めても、似たようでいて微妙に違う花色を楽しめます。たくさんのコスモスが互いを支え合うように風に揺れる様子は風情があり、コスモスの中では比較的新しいオレンジ色のキバナコスモスや、チョコレート色のチョコレートコスモスなども、新しいコスモスとして秋を彩ります。
お彼岸時に咲く短い命の彼岸花
日本全国で9月のうちほぼ1週間程度しか見られない彼岸花。秋に咲く花の中では鮮やかな色合いと特徴的な花の形が目を惹きます。彼岸花は「曼殊沙華(まんじゅしゃげ)=天上に咲く赤い花」と呼ばれ、もともと縁起の良い花ですが、日本では毒草のイメージが強い花です。
土葬の時代に墓や田畑を荒らすネズミやモグラを防ぐため積極的に植えられた彼岸花は、飢饉の時には球根を毒抜きして食べることもありました。葉がなく茎だけが目立つ彼岸花は、秋に咲く花のイメージとは裏腹に、薄闇の中で見ると確かに少し怖い印象があります。でも、元は人の手で人を守るために植えられた花。
埼玉県日高市の巾着田曼珠沙華公園には500万本の彼岸花があり、天皇・皇后両陛下も訪問されました。他にも全国各地に彼岸花の群生地があり、緑色の景色の中に映える真っ赤な色の彼岸花には独特の美しさがあります。役目を終えた彼岸花を愛でに訪れてみてはいかがでしょうか。
菊の楽しみ方いろいろ
一年中絶えることのないイメージの菊ですが、今ほど花の種類が多くなかった時代には秋に咲く花の筆頭であり、それは今でも変わりません。野山に行けばどこにでもあった菊は様々な形に姿を変え、秋になると菊を使った催しが各地で開かれます。
名前に菊と付いているのが9月9日の「重陽の節句」で別名「菊の節句」平安時代に中国から伝わった習慣で、不老長寿や繁栄を願って菊の花びらを浮かべたお酒を飲んだり、菊の花を湯船に浮かべたり、着せ綿といって菊の花に綿をかぶせて翌朝その綿で身体を清めるといった様々な行事を行ってきました。
菊の一大ブームが起こったのが江戸時代で、江戸で開発された菊は「江戸菊」、長野と岐阜にまたがる地域の菊は「美濃菊」といった風にそれぞれが新種を競い合い、江戸時代のガーデニングとして庶民の間に定着。さらに菊人形を飾ったり、菊の花の苦味を取り除き柔らかく食べやすい食用菊を生んだことからも、菊を余すところなく楽しもうとした昔の日本人の心意気が感じられます。
眺めるよりも感じる花、キンモクセイ
キンモクセイの存在は、蕾がついていることさえ気がつかないほど普段は全く目立ちません。それが、9月も下旬にさしかかるとある日突然風に乗って、甘い香りがやってきたと思うと、住宅地や公園などに近づくだけであちこちにキンモクセイの樹があることに気づかされます。
小さなオレンジ色の花が固まって咲くキンモクセイは、厳しい夏が過ぎた後、秋に咲く花。残念ながら花がすぐぽろぽろ落ちてしまうため切り花として楽しむことはできません。花もよくて1週間、雨でも降れば3日で落ちてしまうので、本当に儚い存在。
もし、キンモクセイの花をたくさん集めることができたなら、香水を作ってみてるのもおすすめ。遮光性の高い瓶をよく洗って乾かし、ゴミなどを取り除いたキンモクセイの花を半分以上に詰めて無水アルコールを満たし、2ケ月ほど置くと出来上がり。精製水で薄めてコロンの代用になりルームフレグランスにもピッタリ。
以上、秋に咲く花の長持ち法と楽しみ方についてお伝えしました。庭や花壇では、秋に咲く花というと秋の短い間だけ咲く花を選んで植えるというよりは、春から晩秋まで咲き続けている花が目立ちます。
百日草や千日草などがその良い例。ジニアという別名の百日草は夏の間はやや地味な印象ですが、秋になると赤から朱色、オレンジや黄色といった渋さを含んだ色合いの花が引き立ってきます。
千日草も小さなぼんぼりのような赤やピンクの花が風に揺れる様子は風情を感じ、長く咲き続けるこれらの花は傷んだ下葉や茎を切って風通しを良くしてやることで元気を取り戻し、晩秋まで咲き続けてくれます。
気持ちの良い秋らしさを感じられる時期は意外と短く、北風が冷たくなる頃には秋に咲く花もひっそりと姿を消してしまいます。色々な場所で秋に咲く花を満喫してみてはいかがでしょうか。
まとめ
秋の花を長持ちさせる方法と楽しみ方
・花屋さんで作る秋の花束は水揚げの悪い花に気をつける
・コスモスは切り花より外出しながら楽しむ
・彼岸花はネズミやモグラよけとして人のために働いてくれた花
・江戸時代にブームだった菊は現代でも様々な行事の主役
・秋の香りのキンモクセイを香水にして閉じ込める